Coit Tower|サンフランシスコの町を一望する丘の上の歴史的タワー

ノースビーチ地区を見下ろすテレグラフ・ヒル(Telegraph Hill)の丘の上に聳える白い塔が、コイトタワー(Coit Tower)です。高さ210フィート(約64m)のこの塔は、町のさまざまな場所からその姿を望むことができ、サンフランシスコ(San Francisco)を象徴するランドマークのひとつとして知られています。2008年にはアメリカ国家歴史登録財(National Register of Historic Places)に指定されました。

この塔の建設は、リリー・ヒッチコック・コイト(Lillie Hitchcock Coit)という一人の女性の遺志を反映したものです。華やかな人生の多くをサンフランシスコで過ごした彼女は、「私が常に愛してきたこの町の美しさを、さらに高めるために適切な方法で使うこと」という言葉とともに、遺産の一部をサンフランシスコ市郡に遺贈しました。この寄付をもとに、かつて彼女が暮らしていたテレグラフ・ヒルの丘の上に、記念塔が建設されることになります。

設計を手がけたのは、サンフランシスコ市庁舎の設計でも知られるアーサー・ブラウン・ジュニア。建設には建築家ヘンリー・ハワードも加わりました。1933年に完成した塔の外観は、コンクリート造りのシンプルなアール・デコ様式で、外入口に設けられた不死鳥の銘板が唯一の装飾となっています。この簡潔なデザインについては、リリー・コイトが消防士を敬愛していたことから「消防ホースを模したもの」とする説が語られることもありますが、これは公式には否定されています。

コイトタワーの内部に足を踏み入れると、外観とは対照的な色彩豊かな空間に出会います。ロビーを取り囲む27枚のフレスコ画は、1930年代、世界恐慌の影響を受けたアメリカで、ルーズベルト大統領のもと施行されたWPA(公共事業促進局)の芸術支援プロジェクトの一環として制作されました。地元の若手アーティストたちが参加し、農業、工業、教育、都市生活など、当時のアメリカ社会の日常風景が生き生きと描かれています。作品の中には、時代背景を反映した社会的メッセージも読み取ることができ、観光施設でありながら、当時の空気や価値観を今に伝える“歴史資料”的な側面も持ち合わせています。

エレベーターで展望台へ上がると、視界は一気に開けます。眼下にはサンフランシスコ湾が広がり、ベイブリッジやダウンタウンの高層ビル群、ノースビーチの街並み、天候の良い日にはアルカトラズ島まで見渡すことができます。坂の多いこの町を立体的に俯瞰できるため、サンフランシスコ全体の構造を把握するのにも適した場所です。時間帯によって光の表情は大きく変わり、朝は穏やかに、夕方には町が黄金色に染まる風景を楽しむことができます。

コイトタワーは、毎日10時から17時まで営業しています。1階のフレスコ画は無料で見学できますが、最上階の展望台へ向かうエレベーターは1人3ドルの利用料が必要です。2階のフレスコ画については、土曜日の午前11時から実施されるガイドツアーに参加することで見学が可能です。

ダウンタウンからは車でおよそ20分ほどでアクセスできますが、コイトタワー周辺は坂道が多く、道幅も決して広くはないため、運転には注意が必要です。タワー付近には駐車スペースも用意されていますが、台数が限られているため、混雑時には長時間待つこともあります。フィッシャーマンズ・ワーフ(Fisherman’s Wharf)やノース・ビーチなど人気の観光スポットもあるので、あわせて訪問計画を立てるのがおすすめです。また、滞在中であればワシントン・スクエアから20分間隔で運行されているMUNIバスを利用するのも、選択肢のひとつです。

Location / Address

Coit Tower
1 Telegraph Hill Blvd, San Francisco, CA
Official Web Site: Coit Tower

photo:©San Francisco Travel Association